耳学問による蘊蓄
2004-12-05

起源
ヴァイオリンをいつ誰が発明したかははっきりしてない。レオナルド・ダ・ヴィンチが発明したという伝説もあるがそれは多分ウソだろう。彼の遺した設計図の類にヴァイオリンはないのだ。ヴァイオリン本では16世紀のイタリアでアンドレア・アマティ、あるいはガスパロ・ベルトロッティ(通称ガスパロ・ダ・サロ)が最初に作ったと断定的に書かれてる物も多いが確定したわけではない。はっきりしているのはこの二人の時代に出てきたということだけである(二人の作った楽器が現存している)。楽器は残ってないが二人より古いガスパール・ティーフェンブルッカーが作ったという説もある。彼の肖像画にはヴァイオリンのような楽器が書き込まれているのだ。しかしその絵が後年描かれた物だったりしたらねぇ。更にもっと前の時代に描かれた絵画にヴァイオリンが描かれてるという話もあるが...。いずれにしても登場から450年も経つのにほとんど変化していない不思議な楽器である。

ブレシア派とクレモナ派
ガスパロ・ダ・サロとアンドレア・アマティの両者を比較すると前者は形が大きく平ら、後者は小ぶりで隆起が大きいという差がある。音も前者は音量あるがやや暗く繊細でない、後者は明るく繊細だが音量がないという好対照を見せている。そして前者をプレシア派、後者をクレモナ派なんて言い方もするがブレシア派の方はマッジーニを生んだくらいで滅んでしまった。当時大流行したペストにやられたとか。これに対しクレモナ派の方は一旦中断するが現在まで続いてる。

ストラディヴァリ
クレモナだがアンドレアの子、孫、曾孫も製作家になったのだが孫に当たるニコラはアマティ一族最大の製作家で多くの弟子も育成した。その弟子の中にストラディヴァリがいた。彼はクレモナ最大どころか史上最大の製作家として名を残すことになる。彼の作風だが大雑把に3つの時代に分けられる。1680年くらいまで、1700年くらいまで、18世紀以降という感じか。第1期は師匠ニコラ・アマティの影響がまだ色濃く残ってる時代、第2期は前述ブレシア派の存在を知って両者の長所を合体させようとした頃、そして遂に理想を実現したのが第3期というわけである。

グァルネリ・デル・ジェス
ストラディヴァリの兄弟子にアンドレア・グァルネリという人がいる。グァルネリ一族の祖であるが、この一派最大の大物はグァルネリ・デル・ジェスだろう(アンドレアの孫らしい)。彼はラベルに”IHS”と入れてるのでこう呼ばれてる。そして前述ストラディヴァリとグァルネリ・デル・ジェスで二大製作家、ニコラ・アマティを加えて三大製作家となるのだ。ニコラを省くのは現在となってはやや特殊であり音量もやや控えめなためだ。しかし工作精度はこの三者では一番なのだが。ついでに余談だがブレシア派のガスパーロ・ダ・サロやパオロ・マッジーニはヴァイオリンはともかくヴィオラは未だ現役使用される。ヴィオラは今でもサイズが一定しないということもあるかも知れない。

ストラディヴァリは異様に長命で93年生きたのに対し(前述第3期は50歳を過ぎてからなのだ)デルジェスは50年生きてない。更に殺人容疑で服役したという伝説もあってあまり楽器が残ってない。スタイル的にはストラディヴァリよりもブレシア派寄りである。また工作精度はやや劣ると言われるが音に直接関係ない渦巻部などの手を抜いたのだという。そういった意味では新世代である。

ストラディヴァリは3人、アマティやグァルネリ5人確認されている。以下の通り。
アマティストラディヴァリグァルネリ
初代アンドレア(1511?-1577?)アントニオ(1644-1737)アンドレア(1626-1698)
二代アントニオ(1540-1607)
ジロラモ ヒエロニムス(1561-1630)
フランチェスコ(1671-1743)
オモボノ(1679-1742)
ジュゼッペ(1655-1720)
ピエトロ(マントヴァのピエトロ)(1666-1739)
三代ニコラ(1596-1684)ピエトロII(ヴェニスのピエトロ)(1695-1762)
ジュゼッペ バルトロメオ(デル・ジェス)(1698-1744)
四代ジロラモII(1649-1740)
太字は代表的作家
生没年は資料によって異なることも多いので参考程度に
フランチェスコやオモボノの楽器は非常に少ないという。当初から父親の工房の手伝いばかりで自分の楽器を作れなかったとか現在父親の楽器と混同されてる(アントニオ名義の方が高額で取引される)らしい。

ちょっと余談
ストラディヴァリでなくストラディヴァリウスじゃないか?という人もいるだろう。またストラディヴァリが作った楽器をストラディヴァリウスと呼ぶような言い回しをしたテレビ番組があったがなんか勘違いしてるぞ。実はあの時代ラテン語風に書くのが慣わしでアントニオ・ストラディヴァリはAntonius Stradivaruis,ニコラ・アマティはNicolaus Amatiusなどとなどと書かれていたのだ。だからストラディヴァリかストラディヴァリウスかで喧嘩してはいけない(笑)

その他のイタリア
クレモナ派はこの他ベルゴンツィ,ルジェーリ,モンタニャーナ,ガダニーニなどという名人を生みストリオーニ(最後の名人と言われる)で一旦終結する。これらの人は後年イタリア各地に移住したのでヴェニス派,ナポリ派,ローマ派といった潮流もある。

クレモナの伝統
ストリオーニで途絶えた”クレモナの伝統”はあのムッソリーニにより復興する。ストラディヴァリ没後200年ということでクレモナにヴァイオリン製作学校を設立したのだ。つまり現在のクレモナは歴史はあっても伝統は途絶えてることに注意。

ドイツ
ドイツ・ヴァイオリンといえば現在のオーストリア/スイス/ドイツ付近(チロル地方)のヤコプ・シュタイナーが筆頭だろう。時代的にはニコラ・アマティよりやや後くらい。工作精度も素晴らしいが前述アマティ同様今では特殊な部類なので実用目的ではほとんど使われない。また後年いい加減な改造で無価値にされた物も多いとか。なんでも生前はストラディヴァリよりも高額で取引されたのに本人は貧困のままだったという。しかも発狂したとかいろいろ伝説を持っている。フランツ・ファルガの本ではかなり凄い生涯が書かれていた。

次に挙げるべき人はマティアス・クロッツだろう。彼は現在まで続くミッテンヴァルトの創始者なのである。ドイツの楽器にはなんとかクロッツという作者が多いが多分血縁だろう。前述ニコラ・アマティの弟子なので大きい視点で見ればクレモナ派かもしれない。

フランスは弓
沢山のヴァイオリン製作家を生んだイタリアだが弓製作家はなぜか全く輩出してない。弓はフランスで完成に至るが立役者はフランソワ・トゥルテである。この人こそ現在でもスタンダードな弓材ペルナンブコを発見した人なのだ。トゥルテ以外ではペカット,サルトリーが有名だがこの3人は現在でも弓のモデルとして名が残ってる。他にはヴォアラン,ラミーあたりか?

そのフランスだがイタリアでクレモナが一段落した後ヴァイオリン製作も全盛を迎える。特筆すべき製作家はJ.B.ヴィヨームおよびニコラ・ルポーあたりか。特にヴィヨームはストラディヴァリやデル・ジェスのイミテーションを大量に作ったそうで現存するストラディヴァリの大部分がヴィヨーム作だという説もあるくらいである。またミレクールという町は今でもヴァイオリンの一大産地であるし実際に駒のメーカーとして有名なAUBERTはミレクールに存在する(私の楽器に付いてる駒もそれだ)。ちなみに今は一から駒を作るよりそういうところから入手して加工するのが一般的だ。

パガニーニとヴィヨーム
史上最大のヴァイオリニスト・パガニーニがヴィヨームに愛器の修理を依頼したところヴィヨームはそっくりのイミテーションを作ったという伝説がある。本物とイミテーション両方目の前にしたパガニーニはまずイミテーションの方を手にしたという。これを「区別がつかなかった」と解釈する説と「修理具合よりイミテーションにより興味を持った」という説があるが後者が普通だろう。パガニーニが区別つけられないワケあるかい!しかしそのイミテーションが現存していないからそもそも作られた話なのかも。

細かい進化
この項の初めに450年ほとんど変化していないと書いたが微妙には変化している。だからこそアマティやシュタイナーを「特殊」などと書いているのだがこれは現在の胴長355mmでない可能性があるからだ。このサイズはストラディヴァリあたりで確定したサイズである。しかしそれで現在まで来てるのでもなく18〜19世紀頃改造されるのだ。改造前の楽器をバロックヴァイオリン、改造後のをモダンヴァイオリンなどというが、改造のポイントは といったあたりか。強い音を出すことおよび演奏性の向上が目的だがこんな改造されても問題なく対応できたストラディヴァリとかデルジェスって....。その他顎当ての発明、アジャスタの登場などといった細かいところが進化している。

ちなみにヴィオラは現在に至るまで確定してなく380mm付近から440mmあたりまでのバラツキがある。新作では395mm〜425mmあたりが多い。


オマケ:アジャスタ内蔵した合金製のテールピース

イタリア以外のヨーロッパの生産地
前述ミッテンヴァルト(旧西ドイツ),ミレクール(フランス)の他マルクノイキルヒェン(旧東ドイツ)と言ったところが有名。マルクノイキルヒェンはヴァイオリン産地というより楽器総合かも。

アメリカのヴァイオリン
ってあるのか?実はあるらしい。ギターメーカーのギブソンが作っていたことがあるらしいのだ。第二次大戦の頃ヨーロッパや日本(後述)の製作が止まり、ギブソンが乗り出した、とか。ギブソン社の創始者は最初にヴァイオリンを作ったという話もあるのであながちウソではないかも。ギブソンのヴァイオリンが市場をにぎわすことは遂に無かったがアーチドトップギターにその名残を何となく感じることができる。ブロニスラフ・フーベルマンやルッジェーロ・リッチが愛用したグァルネリ・デル・ジェスは”ギブソン”というニックネームがついてるが勿論関係ない。

日本のヴァイオリン
日本では明治になって間もない頃鈴木政吉が日本最初のヴァイオリン製作家になっている。才能教育の鈴木鎮一の父だ。後に鈴木ヴァイオリンを創業するが一時期の鈴木ヴァイオリンは非常に羽振りが良く(?)スズキはオルガンを作らない、ヤマハはヴァイオリンを作らないという取り決めがあったという。また第一次大戦で上記ヨーロッパ各地で生産が止まったときは世界中に売りまくったとか。それはともかく個人製作家では昭和になってからの宮本金八が最重要か。来日したハイフェッツなどの巨匠が絶賛したという伝説もある。現代の製作家ではドイツヴァイオリンのマイスターである無量塔蔵六(むらたぞうろく)がかなり重要。氏は東京ヴァイオリン製作学校を設立し多くの弟子を育成したが私の行きつけの匠もその一人である。またイタリアヴァイオリンのマエストロである石井高も重要だとは思うがクレモナ在住のため日本での知名度は今ひとつか。

鈴木ヴァイオリンだが現在は名古屋鈴木=スズキであり木曽はスズキではなく木曽バイオリンというらしい。もともと一つの会社だが財閥解体の煽りを受け分割されてしまったのだ。その後木曽鈴木は倒産しエレキギターで有名なESPの資本が入って木曽バイオリンとなった、らしい....

2000年になって世界最大の楽器メーカーであるヤマハが遂に本格的にヴァイオリンに参入し現在に至るのだ。

参考文献:
「ヴァイオリンの名器」フランツ・ファルガ著,佐々木庸一訳,音楽之友社
「ヴァイオリン」無量塔蔵六著,岩波新書
その他脳内記憶

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